真空成形的試行
9.52021
真空成形型を安く作る1つの方法
プラスチックの成形には、加工方法は異なっても必ず型というものが存在します。
真空成形という加工方法は、その中でも一番と言ってよいほどその費用が安くすみます。
それでも紙器やクリアケースなど他の包装資材に比べれば、成形型作成などの初期費用は高額です。
すべての真空成形品に使えるわけではないのですが、真空成形品の初期費用を抑える一つの方法として、現物からの反転の利用した成形型の作成方法を紹介したいと思います。
わたしがお願いしている現場に限って言えば、この作り方による真空成形型の製作費用はアルミの削り出しによる方法と比べ、かなり割安でできていることは間違いがありません。
目次
現物からの反転型
真空成形型の作り方は、マシニングを使った削り型が主流となってきています。
CADデーターで形状を、CAMソフトで切削用のデータを作ってアルミ材を削ります。
以前は、鋳型の真空成形型をよく見ました。
図面を引き木型を作り、それを原型として鋳物に複製して金型を組んでいくという成形型の作り方です。
図面を引かない
今回紹介する【現物からの反転型】も最終的には鋳物に複製して金型を組んでいきますから、前述の「木型→鋳型」という型作りと製作の流れは似ています。
この二つの真空成形型の作り方の違いを上げれば、
- 図面を引かず、原型を作る
- 原型が木製(合成木含む)ではなく、石膏である
ということでしょう。
木型を作るために図面を引く場合にも、形状・寸法の確認のためにほとんどの場合で現物は用意します。
しかし【現物からの反転型】の場合は、現物がなければ型づくりは全く前に進みません。
作り手からすれば現物は原型の元そのものであり、少なくともわたしが知っている【現物からの反転型】の作り手は図面を引きません。
採寸や図面引きなどの工程を経ないことも、費用を抑えられる要因でしょう。
石膏反転から真空成形型をつくる流れ
では、【現物からの反転】で真空成形型が出来上がるまでの流れを見てみます。
パッケージする商品 | 1.反転・修正した石膏型 | 2.鋳物尺に直した石膏原型 | 3.石膏型から鋳物型へ | 成形品 |
1.原寸大の石膏型をつくる
現物を枠で囲み、石膏を流し込めば石膏原型ができるわけではありません。
真空成形をする上で成形型には、抜き勾配や角R(丸み)などをつけられている必要があります。
現物から形状を石膏に反転してからが、職人の腕の見せどころです。
おおよその形状をかたどった石膏型をこの段階で、
- 抜き勾配・角Rをつけ、成形時に支障が出づらい形状にする。
- 寸法を成形型の実寸に整える。
- 回転止めなどお客様からの要望を形状に付け加える。
まず最初に本番の成形型と同じものを作って、一度成形を打って商品(現物)の入りを確認します。
思いどおりの仕上がりであればこれをお客様へ提出し、確認を取ります。
2.鋳物用の石膏原型をつくる
確認用の成形物がOKになったところで、今度は鋳物用の石膏原型を作ります。
形状や収まり具合でOKになった石膏型をそのまま鋳物に出さず、鋳物用にもう一度作り直す理由は、
- アルミ鋳物は凝固する際に、おおよそ1000分の12ほど小さくなる。
そのために鋳物用の原型は1000分の12、大きく作っておかなければなりません。
鋳物の収縮分だけ大きく作っておくことを、鋳物尺にすると言います。
3.鋳物を仕上げて型組を行う
真空成形型としていくつの鋳型を取り付けるかは、生産費用を計算する際に決めておきます。
その数、または加工予備も含めた数の鋳物を発注し、上がってきたところで「裏すり(裏面を平らにする)→磨き→真空穴あけ」と仕上げて行きます。
わたしがお願いしている現場は元は型の仕上げやさんだったので、鋳型の仕上がりがとてもきれいです。
初めてお願いした時、型の仕上がりを見て ’これ、本当に鋳型?’とウナってしまったほどです。
最後に、仕上がった鋳型をアルミ板にねじ等で固定すれば真空成形型の完成となります。
現物からの反転型 ー長所・短所
【現物からの反転型】がどのように作られるのかを説明いたしました。
この工程をご理解いただいた上で、この型作りの長所・短所をお話します。
長所:真空成形型の作成費用が安い
特にスライドや熱圧着のようなブリスターの凸型。
真空成形型は、形状の飛び出し方向の違いで凹凸の2種類の形式があります。
【現物からの反転型】の作り方が得意なのが凸型。
費用に関しては、形状・寸法。型の取付数で費用が大きく変わるので具体的なことは話せませんが、同じ目的の成形型を作ろうとした場合、マシニングによる削り出しと比べるとずいぶん安いとわたしは感じています。
短所:形状に制約・キャパが小さい
型の製作費用が安いという長所のある【現物からの反転型】ですが、残念ながら短所もあります。
作れる形状に制約があるということ・多くの型を同時進行で製作できないということがあげられます。
作れる形状に制約がある
現物から反転した石膏型をベースに、職人がハンドメイドで型を仕上げて行きます。
作り方、そしてハンドメイドならではの難しさがあります。
- 凹型は手間がかかりすぎるため、費用的・時間的なメリットが失われる。
- 正円など精度を要するものは不可。
- アンダーカットなど精度よく鋳物に後加工を加えるものは不可。
などが上げられます。
わたしは、商品に形状なりに被せる仕様ならば【現物からの反転型】を使おうと考えています。
製作キャパが小さい
職人がハンドメイドで型を仕上げて行くことに加えて、その職人が個人で仕事を受けています。
同時期に数多く仕事が重なってしまうと、希望納品日に応えられない場合が時にあります。
ただ最近はマシニングによる型作りが増えていることで、以前のようなバタバタもないようです。
むすび:真空成形型を安く作る1つの方法
今回、真空成形型を安く作る1つの方法として、現物からの反転を利用する型作りを紹介しました。
内容をまとめますと以下のようになります。
- 現物からの反転を利用する型作りを行うと、概してマシニングによる削出し型より製作費用がかなり抑えられる。
- ただし、形状に制約を受けたり、製作キャパが小さいことで利用ができないことがある。
真空成形という加工方法は、他のプラスチック成形法と比べて型の製作費用が安くすみます。
それでも紙器やクリアケースなど他の包装資材に比べれば、成形型作成などの初期費用は高額です。
すべての真空成形品に使えるわけではありませんが、型の製作費用を抑えられる【現物からの反転型】をご利用いただくことで、真空成形品の導入の一助となれば幸いです。